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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)136号 決定 1961年10月07日

抗告人 笹川利光

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由の要旨は

抗告人は原審判の申立人である本籍富山県婦負郡八尾町下新町一三九二番地、住所大分市大字千歳一、九七一の一番地笹川清次郎の長男であるが、抗告人は昭和三六年三月一日以降毎月末日までに扶養料として金二、〇〇〇円宛を右申立人に送金して支払うべき旨の原審判を受けた。然し乍ら抗告人は現在国鉄職員として勤務し、月給金三七、二〇〇円の外別居手当として月金六、〇〇〇円の支給を受け合計金四三、二〇〇円の収入を得ているに過ぎないところ、毎月の支出は生活費金二三、〇〇〇円、子弟の教育費、小遣銭金四、五〇〇円、税金及び借財返済金九、一七三円、家族との別居により生ずる生活費の増加分金六、〇〇〇円を要し、昭和三十六年五月からは以上の外借入金二五、〇〇〇円の月賦返済金二、五〇〇円を新に支出しなければならないので総支出は月々合計金四三、一七三円にも達し、前記収入との差額約二、〇〇〇円の赤字を生ずる状態であるのに加えて、長男の病気治療費として借受けた金五、六万円の借財をも金二、五〇〇円宛月賦弁済しなければならないので、今ここに月々金二、〇〇〇円の扶養料を支払うときは抗告人の家計乃至家庭生活は破綻に瀕する。申立人は昭和九年頃から今日に至るまで抗告人とは別居し、約一五、六年前抗告人方に来て抗告人の世話にはならない旨断言して立去り、申立人が夫として当然扶養すべきその妻、即ち抗告人の母が病弱のためその死亡するまで抗告人において七、八年間看病するに委せ、母死亡の通知に接しても遂に来なかつたもので、若し本件抗告が却下されるときは抗告人の妻は離婚するとさえ云つている程であるから到底右審判には応じ難いので右審判の取消を求める。

と云うに在る。

よつて按ずるに右抗告理由において主張する抗告人の家庭的事情中借財及び家計費支出額の点を除くその余の事実はすべて調査官の調査報告書その他一件記録に徴し明かなところであり、昭和三十六年二月二日付調査官の調査報告書(記録一二丁以下)により原審判当時抗告人には借財はなく、家計費支出額は月額平均三三、七七〇円程度であつたと認められるところ、(以上の事実は原審判理由においてほぼ同様に認定された事実か、又は原審判当時既に一件記録上明白であり、少くとも扶養の程度、方法の決定につき斟酌されたと認められる事実のみである。)右事実を参酌して考察しても、抗告人は本件審判申立人たる笹川清次郎に対し昭和三十六年三月一日以降毎月末日までに金二、〇〇〇円宛の扶養料を送金して支払うのが相当と認められるので原審判はまことに正当であり、又抗告人主張の金二五、〇〇〇円及び長男の病気治療費として借受けた金五、六万円の借財はいずれも原審判があつた後に生じた事情の変更と認められるから民法第八八〇条の明定する如く家庭裁判所において審判の変更取消をなす理由とはなり得ても、原審判に対する即時抗告の理由とはならないものと云うべきものである。

以上の次第で本件抗告は理由がないのでこれを棄却し、抗告費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 相島一之 裁判官 池畑祐治 裁判官 藤野英一)

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